仕様の大部分が共通する、ヤマハの2台
ヤマハの家庭用ピアノを選ぶとき、「ARIUSとClavinovaのどちらにするか」はよくある迷いどころです。ここ数年は、Clavinovaの入門機CLP-825と、ARIUSの標準上位機YDP-165の比較がその代表でした。
2台とも、国内ではすでに新しいモデルに替わっています。YDP-166は2026年6月に発売されました。ヤマハは2026年9月にCLP-826を発表し、国内発売日は2026年10月22日です。CLP-825は国内サイトで生産完了品になっています。
ヤマハの国内仕様表を並べると、CLP-825とCLP-826で違うのは「鍵盤」の1行だけです。店頭にCLP-825の在庫が残っていれば、次の章で説明する白鍵側面の木材以外は、この記事の内容がそのまま当てはまります。
共通点は多くあります。88鍵、Yamaha CFXの音、音色10種類、残響4種類は同じです。20W×2の40Wで、ディフューザー付きの12cmスピーカー2基を鳴らす点も共通です。BluetoothオーディオとBluetooth MIDI、6.3mmの標準ヘッドホン端子2つ、ハーフペダル対応の3本ペダルもそろっています。内蔵曲はレッスン曲303曲とクラシック名曲50曲で、2トラックの録音、USB TO HOST端子でのUSBオーディオにも両方が対応します。ライン出力はどちらにもありません。高さは同じ849mmで、幅の差は7mmです。
残る違いは、鍵盤、2つ目のピアノの音、同時に出せる音の数、共鳴の再現、重さ、そして価格の差です。
方法について先に書いておきます。これはヤマハの公表仕様にもとづく比較です。2台を弾き比べた経験はなく、CLP-826はまだ発売前です。弾き心地の優劣は付けず、ヤマハが公表している内容を並べます。
鍵盤:ARIUSとClavinovaの境目がはっきりした
CLP-826の鍵盤はGrandTouch-Sで、CLP-825と同じ鍵盤です。エスケープメント付きで、表面は象牙調・黒檀調の仕上げです。今回ヤマハが変えたのは、白鍵の側面に木材を使った点だけです。
ヤマハはこの変更を、利用者の要望に応えたものと説明しています。アコースティックピアノで培った鍵盤設計と合わせて、グランドピアノに近い感触を目指したそうです。例として、オクターブを弾くときの指の当たり方が自然になる点を挙げています。
ただし、木製の鍵盤ではありません。ヤマハはCLP-845の白鍵を「木製」と書き、CLP-826は「木材使用」と書いています。この言葉の違いには意味があります。
YDP-166の鍵盤は、今回のARIUSに合わせてヤマハが開発したGrandTouch-Eです。こちらも仕様にエスケープメントが明記され、表面は象牙調・黒檀調の仕上げです。木材の記載はありません。
このため、ARIUSとClavinovaの境目は今回の改良でよりはっきりしました。仕様表で見る限り、CLP-825とYDP-166の鍵盤には共通点が多くありました。どちらもエスケープメント付きで、表面の仕上げも似ていて、どちらにも木材の記載がありません。両者の違いは、主に鍵盤の名前でした。CLP-826には、ARIUSにない形の違いがあります。店頭で目で見て、指で触れて確かめられる違いです。
それが弾き心地をどれだけ変えるかは、別の話です。ヤマハは鍵盤の重さやセンサー数を公表していません。GrandTouch-EとGrandTouch-Sの関係も説明していません。当サイトのタッチ等級では、GrandTouch-SがGrandTouch-Eより1段上です(8と7)。ただしこれは公表されている構造から決めた数値で、弾いた印象ではありません。白鍵側面の木材も、この等級には反映していません。Clavinovaを検討する理由が鍵盤なら、ここは自分の指で確かめるのが確実です。
音:同じCFXに、Bösendorferが加わる
どちらもYamaha CFXの音がもとで、音色は10種類です。CLP-826には、もう1台のコンサートグランドとしてBösendorfer Imperialの音が入っています。性格の違う2種類のピアノの音を弾き分けたい方には、Clavinovaだけの選択肢です。
共鳴の再現は、仕様の上で違いがあります。CLP-826はVRM、YDP-166はVRM Liteです。どちらも、複数の音が重なって響くときや、ダンパーペダルを踏んだときの共鳴を再現する仕組みです。Lite版で何が省かれているかは公表されていません。音の種類が違うのではなく、細かさの違いと考えるのが妥当です。
同時に出せる音の数は、CLP-826が256音、YDP-166が192音です。ペダルを長く踏み続ける曲や、2つの音色を重ねて弾くときに足りなくなりやすい数値です。家庭での練習の多くは192音で足ります。256音はその余裕が大きい、という違いです。
スピーカーは選び分ける材料になりません。どちらも20W×2で、ディフューザー付きの12cmスピーカー2基を鳴らします。ヘッドホン用のステレオフォニックオプティマイザーと、小さな音量でも聴きやすくするIntelligent Acoustic Controlも両方にあります。同じ部屋・同じ音量で違いを感じるとしたら、それは音の元と共鳴の再現によるもので、スピーカーの差ではありません。
接続・レッスン・練習機能:ほぼ同じ
機能の面では、Clavinovaという名前から想像するより差は小さい2台です。どちらもBluetoothオーディオに対応し、スマートフォンやタブレットの音を本体のスピーカーで鳴らせます。Bluetooth MIDIでアプリともつながります。
USB TO HOST端子でUSBオーディオインターフェースとして使える点も共通です。パソコンで録音するときは、この経路になります。ライン出力やAUX端子はどちらにもありません。外部のアンプやミキサーにつなぐときも、パソコンを経由します。ヘッドホン端子は両方とも標準サイズが2つで、2人で並んで静かに練習できます。
レッスン機能も同じです。レッスン曲303曲とクラシック名曲50曲、メトロノーム、移調、2トラックの録音がどちらにも備わっています。
大きさ・重さと付属品
本体の寸法は、CLP-826が幅1,350mm・奥行411mm・高さ849mmで、重さは45kgです。YDP-166は幅1,357mm・奥行422mm・高さ849mmで、重さは42kgです。
Clavinovaのほうが幅がわずかに狭く、奥行も11mm浅い一方で、重さは3kg上回ります。どの差も、置き場所の判断を変えるほどではありません。奥行を本当に抑えたい場合は、同じGrandTouch-Eを奥行309mmの本体に収めたYDP-S56が候補になります。
国内版は、どちらにも高低自在椅子とヘッドホンが付きます。CLP-826には、クラシック名曲50曲の楽譜集も付属します。
価格の差と、ARIUSで十分な人
国内ではどちらもオープン価格で、CLP-826のほうが一段上の価格帯です。その差で得られるのは、白鍵側面に木材を使ったGrandTouch-Sの鍵盤、2つ目のピアノの音としてのBösendorfer Imperial、256音の同時に出せる音の数、そしてVRMです。音色数、スピーカー出力、接続端子、レッスン機能は増えません。
YDP-166で十分な方 は多いと思います。CFXの音、エスケープメント付きの鍵盤、Bluetooth、ヘッドホン端子2つがそろっています。お子さんがレッスンを始める家庭や、ピアノを再開する大人で、ヘッドホンでの練習が中心なら、日々の練習に必要なものは備わっています。残る差は、意識して探さないと気づきにくい部分です。
CLP-826が向く方 は、鍵盤を最も重視し、2台を実際に試して違いを感じた方です。Bösendorferの音を2つ目のピアノとして使いたい方や、ペダルを長く使う曲を弾くので同時に出せる音の数に余裕がほしい方にも候補になります。
音色の多さ、外部出力、より大きなスピーカーを求めるなら、この2台のどちらでもありません。その場合は、1つ上のClavinova CLP-836が比較の相手です。38音色、16cmスピーカーを鳴らす30W×2、AUX入出力を備えています。ARIUSと同じ価格帯で他社も比べたい場合は、カワイ CX202 vs ヤマハ YDP-166の比較も参考になります。