Kawaとヤマハはこの価格帯で何十年も競い合っています。そして鍵盤の感触については、いまだに意見が一致していません。KDP75もYDP-145も、スタンド・3本ペダル・鍵盤カバー・88鍵の重み付き鍵盤つきのパッケージで、価格もほぼ同じです。どちらもBluetoothなし。スペックシートを並べると、ほとんど同じに見えます。でも実際に弾いてみると、明らかに違います。
鍵盤アクションの違い、具体的に言うと
ヤマハのGHSアクションは一言で表すと「しっかりしていて、予測通り」という感触です。鍵盤を押すと、最初から最後まで一定の抵抗があります。少し固め、ちょうど精度の高い機械スイッチのような感覚です。予想外のことは何も起きません。指の力加減やタイミングを練習している初心者には、この「予測可能さ」が助けになります。鍵盤がどう動くか分かっているので、音楽に集中できます。
カワイのResponsive Hammer Compact(RHC)アクションは、少し違う感触です。鍵盤の動き全体に柔らかさがあり、経験者が「なめらか」「自然な感じ」と表現する、ちょっとした弾力性があります。鍵盤の一番上で最初に硬い壁に当たる感覚がなく、指の動きに沿って自然についてくる感じです。GHSが「しっかりしたドアノブ」なら、RHCは「密度の高いスポンジを押す感覚」に近いです。これはどちらが上でどちらが下という話ではありません。「最初からこの方が好き」という方と「柔らかすぎる」と感じる方に、はっきり分かれます。
どちらも重み付きで段階的加重があり、鍵盤の表面はつや消しプラスチックです。アイボリー調テクスチャはどちらにもありません。違いはあくまで機構そのものの感触だけです。
音の性格:明るさと温かさ
ヤマハのCFXサンプリング(VRM Lite付き)は、同社フラグシップの9フィートコンサートグランドが音源です。明るく、透明で、輪郭がはっきりしています。YDP-145もその性格で、音が前に出る明瞭さがあります。VRM Liteはサスティンペダルを踏んだときの共鳴をシミュレートし、より生きた感触を加えます。
カワイのSK-EXサンプリングは、職人の手で作られたShigeruコンサートグランドが音源です。明るさよりも温かさと深みで知られています。KDP75は中音域が豊かで、高音域の丸みがあり、和音を伸ばしたときの倍音の重なり方が複雑な美しさを持っています。ヤマハの音が「クリアで前に出る」なら、カワイの音は「温かく包まれるような」印象です。これはどちらが良いかという話ではなく、どちらの音色に魅かれるかという話です。
内蔵レッスン曲:ヤマハの具体的な強み
YDP-145にはバイエル、ツェルニー、段階的な練習曲など363曲が内蔵されています。アプリを設定しなくても、電源を入れてすぐに体系的なレッスン曲で練習を始められます。KDP75の内蔵曲は55曲です。
最初の数ヶ月は差を感じないかもしれません。でも半年ほど毎日練習していると、55曲では物足りなくなることがあります。KDP75はUSB接続でカワイのアプリに繋げば、より充実したレッスン機能が使えます。ただしそれにはタブレットやスマートフォン、ケーブル、初期設定が必要です。YDP-145の内蔵曲は電源を入れた瞬間から使えます。
Virtual Technician:後になって効いてくる違い
どちらもUSB経由でアプリに接続できます。Bluetoothはどちらにもありません。ただし、カワイのUSB接続はVirtual Technicianという機能を解放します。これは音の明るさ・弦の共鳴の深さ・鍵盤を離したときの音量・タッチ感度の曲線などを細かく調整できるカスタマイズシステムです。音をやわらかくしたり明るくしたり、鍵盤の抵抗感を増やしたり減らしたりできます。
完全な初心者には、最初のうちこれらの調整は意味をなしません。「どんな感触が好きか」という意見が固まるほど弾いてからでないと、使いこなせないからです。逆に、以前ピアノを弾いていて「あの感触」「あの音」を求めている方には、Virtual Technicianは大きな強みです。ブランクを経て弾き直す方にKDP75を勧める理由の一つがここにあります。
2台の出発点
YDP-145を選ぶのは、初めてのピアノで余計な設定なく使い始めたい方、内蔵レッスン曲をメインに使いたい方、または贈り物として幅広い先生に親しみのあるブランドを選びたい方です。GHSの確実な感触は初心者の練習に向いており、363曲の内蔵曲はすぐに使えるスタートの強みです。
KDP75を選ぶのは、両方弾いてみてカワイのなめらかで自然な鍵盤感が好みだった方、ヘッドホンでの練習が多くSpatial Headphone Sound(ヘッドホンの種類に合わせた空間感の最適化)を使いたい方、あるいはピアノ経験があってVirtual Technicianのカスタマイズを活用したい方です。SK-EXサンプリングはKDP75の一番の魅力です。温かく表情豊かで、夜に良いヘッドホンでじっくり聴くと、その良さが特によく分かります。